一章三話 人形芝居
稲葉楼にて
りく、お京ちゃんはいる?
あ、清ちゃん。
女将さんは千枝ちゃん、探しに行きんした。
「京」とは稲葉楼の女将で、探しにいった「千枝」は稲葉楼の花魁で、附廻しの「文乃」の事である。
りくと千枝は仲の良い姉妹の様な関係で、もう一人の花魁で昼三の「黎吉」こと「志津」の3人が稲葉楼では最も人気のある花魁であった。
ここんとこ、千枝ちゃんは仕事の合間見ては織音座に行ってるようでありんす。
わっち、ちょいとばかり心配していんすよ。
誰かお目当ての人でもいるのかい?
足田遊吉に夢中のようでいんした。
人形使いだっけ?
そうでありんす。
わっちが観に行きんした時は、ちっとも面白うありんせんしたのに…。
清ちゃん、観て来てくれんせんか?
わっち今日は出かけれんせん。
あたしが?
今日は仕出しがあるから忙しくてね・・・。
そうでありんすね。残念…。
悪いね、他の人に頼んでみて。
あ‼︎お京ちゃん‼︎お帰り‼︎今日の献立なんだけど、見事なクエが手に入ってね…。
バタバタと京の方へと向かう清を見ながら、りくは誰に頼もうかと考えていた。
「ニャア…」
はちがりくを見つめて鳴いた。
あ、そうね。夢路なら暇間があるかもしれんせん。
はち、夢路に聞いて来てくんなまし。
りくはそそくさと懐から懐紙を取り出して走り書きをすると、はちの首に文を結びつけた。はちは当たり前の様にそのまま走って出て行った。
仕立て屋にて
「カァー」
遠くからカラスの鳴き声がした。その声はやがて近くになり、すぐ外で聞こえた。
玄じゃないのかい?
そうだ。
あれ?はち、玄に案内されたのか?
って事は俺に用事か。
玄はたまやでうろついていたはちを見つけ、夢路のいた嘉太郎の家まではちを連れて来たのだった。
夢路ははちを撫でると首についてる文を取り読み上げた。
織音座の人形芝居って、総司が出た寄席にあった演目のひとつ?
多分それだね。
りくちゃんが面白くなさ過ぎて頭から離れなくなったって言ってたヤツ。
千枝ちゃん、かなりのご執心のようで。
あの娘、蛍火の様な娘だから、りくもさぞ気がかりだろうネ。
行くなら僕も一緒に行こうか?
それは助かる💕
総司の様子も気になってるんだ。
でも今持ち合わせがないんだよな💦
それくらい貸してあげるよ。
貸してくれてもな😅今月全然仕事ないんだよ。
何時でもいいよ。
じゃ行くか…。
座長にもたまに仕事貰ったりして世話になってるから挨拶しないとな…。
織音座にて
織音座に着くと夢路は早々に織音座の座長である通称「龍さん」に挨拶しに行った。
嘉太郎は夢路を待っていたもののなかなか戻って来そうになかったので、劇場内の見物を始めた。
すると誰もいない舞台裏で小言を言う様な声が聞こえてきたので、幕裏を覗いてみた。
そこには図体の大きい男がもう一人の男から叱責されている姿があった。嘉太郎はもしやと思い、声をかけて見る事にした。
もしかして、人形芝居されてるお方ですか?
今日お芝居を拝見しようと思って来ました。
男達はびっくりしながらも、嘉太郎の言葉に喜び、それまでの険悪さを忘れた様に歓迎した。
嘉太郎は僅かな時間、二人と挨拶の様な会話を交わすと「では」と言ってその場を離れ、客席の方に戻ると、どうやら夢路も龍さんとの話が済んだ様だった。
二人は比較的前の方の席を取ると座って、開始の時間が来るのを待った。
この寄席にまだ出ている総司が二人に気づいて話しかけて来たが、二人はすっかりその事を忘れていて、総司をガッカリさせる場面もあったが、目的である人形芝居を観た後、総司の一人芝居も吟味して,二人でたまにコソコソと言葉を交わした。
夢路は総司の芝居が終わると演目の最後を待たずに席を立った。
ごめん、嘉太郎。
龍さんから頼まれごとしたので、先に失礼するよ。
後で寄る。
あぁ、解ったヨ。
僕も話したい事があるから、寄ってくれると助かる。
再び仕立て屋
で、 龍さんに仕事でも頼まれたのかい?
まぁね。金にはなりそうにないけどな。
あの人形芝居の寄席芸人がどうにも面白くないから、どうにか出来ないかって聞かれた。
夢路、そんな事までするのかい?
しないよ。俺そんな面白くないし。
ただ総司の噺が面白かったから、手伝ったなら出来るだろうって。
あれは総司が考えたんだろう?
そうだよ。俺は総司の話を整えただけだからね。
だから無理だって言ったけど、お前が手伝った方がもう少しまともになるだろうってさ。
酷い言われようだね。確かに面白くなかったけど…😅
でもあの二人、特に人形役じゃない方は、何処か身構えてて、他人を相容れない雰囲気があったな。ニコニコはしてたけど…。
うん、俺もあの後話してみたけど、足田遊吉ってヤツの方は相当な頑固者だね。
でも龍さんから頼まれて無下には出来ないから、様子探ってみるよ。
千枝ちゃんの事もあるから丁度良いし。
そうだね。
あ、斎蔵さんには?
話してからここに来た。
斎蔵さんは用心深い人だからね。俺の見落とし拾ってくれる😁
なら安心だ。
僕も手伝える事があったら何時でも言ってくれよ。
もちろん😊
あぁ、もう一人の方、何とか恭輔ってヤツが嘉太郎の事話してたよ。
え?僕の事?
何て?
「今日僕達の芝居観に来てくれた人がいたんです」って。
「歌舞伎役者みたいに綺麗な人だったので、余計嬉しくなりました」ってさ。
おや、悪い気はしないネ☺️。
ただあの二人には気になるものがあるね🤔。
もしかして・・・。
夢路の覗く様な言葉に嘉太郎は軽く頷いた。
おねえさんに言わなくちゃネ。
注解 其の三
夢路、花魁言葉、よく知ってるネ。
知らん。
おやま(^_^;)
だから浦里さんにお世話になってる。
へぇ、そんなのがあるんだ。面白いね。
でも上手く置き換えてくれない時もあるし、あくまで雰囲気って事で理解してくれよな。
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