第一章 座敷童子 一話 鬼隠町の住人
置屋「たまや」
こんにちはー。夢さん、いますー?
「たまや」と書かれた看板を尻目に、男がガラリと引き戸を開け声をかけた。
おー、いるよ。
男はドタドタと中に入ると勝手知ったように一つの小さな部屋に入っていった。そこにはボサボサ頭の書生の様な姿をした者がいた。
この間の『花街風流解』(はなまち・さとふりげ)貸して。
あぁ?
ダメだよ、まだ読んでるんだから。
この書生風の人物たまやの居候「治水夢路」。
文学家で主に戯曲を書いている。売れてはいないが、たまに随想等を書いて生活費の足しにしてるらしい。ちなみにこの風貌だが女である。男装が趣味な訳ではなく、単に動き易いと言うのが理由らしい。
お腹が膨らんだ「玄」と言うカラスを可愛がっている。
そしてこの男「中務総司」。
「曽呂利亮左衛門」と言う名で幇間を生業としている。ちなみに曽呂利亮左衛門と言う名は幇間の祖と言われる曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)から頂戴しているが、とにかく不器用な上、女好きなのに免疫がなくてすぐに鼻血を出したり、話に困って下ネタを言ったりするので、御座敷に呼ばれる事は少ない。人は良いので芸妓・娼妓や女将からは好かれている。
えー勉強したいんやけどなぁ。
何の勉強やら・・・。
それよりこの封書をりくちゃんと清ちゃんの所に届けてくれよ。
あ、あと仕立て職人の嘉太郎さんとこにもな。
でへ💕
昼間の置屋(*´∇`*)
お前なー(-_-;)
はいはい、わかってますって(*´∀`*)
お三人さんにこれ届ければいいんでしょ。
頼んだよ。
環姐さんはいます?
いるよ。房で絵を描いてる。
あ・・・描いてる途中か・・・。
まぁ行ってみれば?
そうしますわ。
総司は夢路の部屋を出ると長い廊下を歩き、やがて角の部屋に声をかけた。
姐さん、いてる??
人の気配はするが、返事はない。
恐る恐る開けるとそこでは一心不乱に絵を描く女の姿があった。
総司が何度か呼ぶうちに、女はその存在に気づいて振り返った。
あぁ来てたのね。
女は「久遠環」。
「たまや」の芸妓で「鼓星」と言い、この花街でも一二を争う人気の芸妓である。
芸事だけでなく、絵師としてもその名を馳せており、花街の芸妓・娼妓を絵にしては売れ、その価値も高くなっていた。
最近では現代絵画等にも意欲的に取り組んでいる。
総司はたまに環から頼まれごとを引き受けては小遣いを貰ったり、お座敷に呼んで貰ったりしていた。ただしお座敷は殆ど定番芸しかさせて貰えなかったが…。
この絵は?
綺麗でしょ☺️
お銀ちゃんよ
お銀ちゃん?
綺麗でしょ?
えぇ、まぁそれはその通りで…(*´∀`*)
………創作意欲が…⤵︎
ひでぇ…(T . T)
そうそう、お母さんからこれ預かってるわ✉️✋
大事に使いなさいよ。
🤑❗️有難うございます!!
環は総司の様子にヤレヤレと言う顔をするとくるりと向きを変え、また絵を描き始めた。
総司はその紙包みを満面の笑みで懐に入れると、そそくさを置屋を後にした。
外に出て暫く歩いているとカラスが「カァー」と鳴くのが聞こえた。
あ、あのカラス…。
屋根の上にいたカラスは、夢路が「玄」と名付けて可愛がってるカラスで、お腹の辺りが不自然に膨らんでいるのですぐに判った。玄の足には文が結び付けられていた。
あぁ、誰かに文を届けに行くんか・・・。
うわっ!!
玄は悪戯げにわざと総司の顔ギリギリを飛んで行った。
もう… 夢路のやつーヽ(`ω´ )/💢‼️
総司はブツクサと言いながら次の置屋へと花街を歩いていた。
置屋「稲葉楼」
初音さん。
次の置屋の裏手から中に入ると、そこは広めの裏庭があり、沢山の野良猫がたむろしていた。
その中央で猫に囲まれてながら餌をあげている娘がいた。
猫に餌をあげていた娘は「才谷りく」。
「稲葉楼」一番人気の花魁「初音」である。
明るい性格で夜は人気を集めていたが、昼間は稽古の合間をみて、もっぱら敷地内に野良猫達を集めては面倒を観ていた。そのうちの一匹、白と黒の「ハチ」は特に可愛がっていて、意思疎通が出来ている様子だった。
総ちゃん、ここに来る前に夢ちゃんのとこに行きなんした?
何で知ってるんですか。
ふふふ😁
ハチがね、教えてくれたでありんす。
りくは悪戯っぽく笑い、集まっていた猫のうちの一匹、黒と白で顔が鉢割れになってる猫を見た。
ハチはりくと目が合うと「ニャオ」と鳴いてみせた。
もう叶わんなぁ。
あ、これ夢さんから預かって来ました✋✉️
有難うござりんした✉️✋
りくは受け取った封書を大事そうに仕舞うと、猫に餌をあげながら言った。
そう言えば、最近お芝居小屋に行ってると聞きんしたが…。
え・・・何で知ってるん?
…またハチ?もぉー何でそんなに俺の周りにいるんよー😫
知らない
ハチに聞いて。
聞いても俺には判らへんし。
それもそうでありんすね。
で?お芝居は?
たまやの女将さんに『幇間として一人前になりたいなら芸を磨きなさい』って言われたから、役者さんに習おうと思って行ったんですよ。そしたら寄席演芸やってた人がいたんで、お芝居に出ながら勉強してます。
おおかたサクラの役でありますか( ̄▽ ̄)
…
図星⭐︎( ̄ー ̄)
揚屋・和泉屋
こらっボロリ!何道草食ってるのさ‼️
二人の間を割って入る様に威勢のいい声が響いた。
揚屋「和泉屋」の女将「和泉野清」。
揚屋ではあるが、たまに仕出しで他の置屋に料理を提供もしていた。サバサバしていて面倒見の良い女将である。ぎこちなく走り回っていて怪我しそうな場面が多く、周りをハラハラさせるが、いざとなると突然身のこなしが軽やかになるので、周りが不思議がっている。
清さん!(◎_◎;)
清さんじゃないよヽ( ̄д ̄;)
ちゃんと芸は磨いてるのかい!?
やってますよ、僕なりに…。
それに僕は「ぼろり」じゃなくて「そろり」です。
曽呂利なんて怖れ多いよ。
あんたはボロボロの「ボロリ」で十分だわ🤭
ここでもひでぇ…😓
どうせご飯食べてないんだろ。
後でうちに寄りな🍱
は〜いヽ(´▽`)/
あ!清さんにも渡してくれって言われたんやった💦
これ、夢さんから✋✉️
あぁ夢路ね✉️✋
あいよ、確かに受け取ったからね。
じゃあ後で寄ります😊
早く来ないとなくなるからね。
清は後ろ手に手を振ると置屋の中に入って行った。
今日の飯は確保と。あとは嘉太郎さんのとこか・・・。
と、その前に・・・😏
総司は懐から先ほど環から貰った紙包みを取り出した。そこには一円札が入っていた。総司はいやらしく微笑むと花街の外れにある小さなカフェに寄った。
新聞社・月就社
あっ総司くん・・・。
えっ!(◎_◎;)…あ、あぁ…💦
なんだ、山之内さんか・・・関知さんかと思った・・・😵
声をかけたのは新聞社「月就社」の記者・山之内誠。
この花街にある分室に常駐して、娯楽記事や地域の情報等を集めているが、事件等が起きると事件の取材や寄稿する事もある。多忙な時は夢路に寄稿を頼んでいる。
穏やかで何時も変わらない落ち着いた物腰で、地域の誰とも馴染んでいた事から情報通でもある。
誠はこの日、カフェに集まる人達の取材を兼ねて珈琲を飲みに訪れていた。
カフェにはキューピー人形やかるた・ビー玉・おはじき等の遊具も置かれており、女給が可愛いと評判の店であった。
なんだ、また来たのか。
えぇ、だって先月入ってきたばかりの打ち玉、ほんま面白いんですよ。
君の目的はそこじゃないだろうがな😁
何言うてるんですか💦
ここには目新しいもんがぎょーさんあるから面白いんですって(^◇^;)
打ち玉とはウォールゲームの事である。
当時日本に入ってきたばかりであったが、鬼隠町は意外なほど新しい物が取り入れられた町であったので、この品物もその一つであった。
今日ははなちゃんお休みだって言ってたよ。
残念だったね😊
あ・・・・そーですか😶
打ち玉やりたかったんじゃないのか😊
ま・・・そうですけどぉ・・・😓
あ、師匠の所にも行かなきゃいけないんだった💦
誠のニコニコ笑顔にバツの悪い総司は、逃げる様に次の目的地へと向かった。
仕立屋
師匠
お、総司か、ちょうどいい所に来たネ。
七夏さんにこの着物持って行っておくれ。
この男は仕立職人・五島 嘉太郎。
嘉太郎は男にしては色白で線の細い、女形と見紛う美しさと気品と、洗練された物腰の持ち主で、この見た目につられて訪れる客も多かったが、自分が仕立てたいと思う客の着物しか仕立てないのが売りでもあった。
総司はこの嘉太郎の美しさと物腰に惹かれ、「師匠」と仰いでいた。
はい、師匠。
・・・ってまたたまやに戻るのか…😓
何か文句でもお有りかい?
いえ、ないです😐
・・・師匠、それは?
あぁ、これかい?
総司は脇にあった文机の上に、絵が描かれた小さな紙を見つけた。
これはネ、この間夢路に借りた本にあった挿し絵を真似して描いてみたんだよ。
へぇ、なんて人の絵ですか?
「竹久夢二」って言うんだよ。
まぁ似せたつもりはないから別物だけどね。
そうなんですか・・・でも綺麗ですね。
ありがと☺️
・・・あ、そうだ、師匠の分も預かってたんや、これ…✋✉️
夢路からかい?
そうです。
何時も悪いね☺️じゃこれ駄賃だよ✋
何ですか?これ・・・え・・・?
好きでしょ、こう言うの…❤️
師匠・・・😅
一枚の紙きれを渡された総司は、その紙に書かれたものに苦笑しながら外に出た。
微妙な顔で紙を眺めながら歩く総司は、角を曲がった所で出会い頭に人とぶつかりそうになった。
警察
おっと❕・・・って、お前か!何処見て歩いてるんだ…。
か、関知さん💦
この警官は関知斎蔵。
ともすれば治安の乱れる鬼隠町の治安を一手に引き受けて、常に見回りを欠かさない、正義感の強い男である。
総司は何度か喧嘩に巻き込まれたとばっちりで、捕らえられた事があるが、その度に斎蔵が手を回してくれていたので、頭が上がらない存在である。
僕は何もやってませんよ。
何も…って、何か後ろめたい事でもやってるのか❓
いや、その・・・あの・・・。
まぁお前の場合はお前が何かするって言うより、される方だろうからな。
気をつけろよ。
はい・・・(´・_・`)
ん?何持ってるんだ?
あ、これですか・・・いや・・・😅
何隠してるんだよ( ̄ー ̄)
気になるじゃないか。
いや・・・その・・・😓
昼間に見る様な物でも・・・💦
斎蔵は隠そうとする総司の手から紙片を取りあげた。
何だこれ?
師匠がくれたんです。
駄賃だって・・・(。-_-。)
駄賃(・・)…。
まぁ…お前さんには丁度良さそうだな😁
ははは(⌒▽⌒)
笑わんで下さいよ😓
女衒
楽しそうですね☺️
女衒で花街一帯の取締役、浜間七夏。
七夏は鬼隠町の治安を中から守っている存在で、地域からの人望も厚い。
女衒と言う職業ではあったが、まだ根強く残っていた人身売買を撤廃し、男も女も守られながら安心して働ける場所を作り上げた人物である。
あぁ七夏さんか。
これ嘉太郎から総司への駄賃代わりだそうだ。
ん?・・・・これ・・・・くっ・・・😁
あーもう、七夏さんまで・・・😩
悪い悪い😂、しかしよく描けてるね。
この絵は嘉太郎か?
そうですよ😓こんなの描くの師匠しかいませんよ😤
そうか?嘉太郎より環の方が描きそうだし、何なら清さんも描きそうだけどな。
それは是非拝見したいね。
いやいや、そんなん貰っても売るに売れへんし…💦
まぁ家で一人で楽しめばいいさ。どうせ金ないんだろう?
あ、肝心な事を忘れてしまいそうだ、斎蔵さん、探してたんですよ。
あぁ例の件ですかね。
そうです。
じゃあ話を聞こうか。
悪いね、総司、またな。
はい・・・。
置いてけぼりになった総司は、ふと預かっていた着物が七夏の物だった事を思い出したが、もう二人の姿はなかった。
仕方なく、来た道を戻ってたまやに着物を預けると、清の所に飯を食べに行くのだった。
注解 其の一
夢さん、ふりがなふってある所以外、読めない漢字があるんだけど。
気にするな。
基本、本物以外はふりがなはふらん主義だ。
は??
本物?意味が判らない。
100年後にはこれを「オトナの事情」と言う。
100年後って…?
時々夢さんの言ってる事は判らない💦
まぁ好きなように読め。
俺は気にせん。
「俺は」…って…😓
夢さん、ほんま女ですか?
おー、ちちあるぞ。
見るか?
え・・・・・?
うわぁ? や、やめやぁぁぁぁ💦💦
あぁぁぁぁ……💦
・・・・・
意外とおっきかった…(〃ω〃)
…って事で、鬼隠風流解にふりがなは振ってないです。
それからこれはざっくり大正時代風の話なので、細かい所は突き詰めないで下さい。
「ぱられるわーるど」と言うらしいぞ。
(*´∀`*)・・・
…なんだ?
夢さん…もいっかい…(*^^*)
あ?✂︎🌭✨
…何でもないです💦
…で、さっきの嘉太郎の描いた絵はなんだったんだ?
いや…その…🥵
あ・・・・
ん?枕絵?…なんだ、可愛いもんじゃないか。
お前この程度でそんなに赤くなってるのか?
あ・・・・(〃ω〃)
おもしれー💕
ホラホラ〜ヽ(*^ω^*)ノ
夢さん!!!💢
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