一章四話 オリオンズ

2023年5月12日

それから数日経ったある日の午後、たまやにりく・斎蔵・清・嘉太郎・誠が呼ばれた。
当然たまやに住み込んでいる七夏・環・夢路もいたので、周知の顔は勢揃いしていた。

いろいろ調べてみたけど、遊吉はつまらない揉め事はよく起こしてるみたいだけど、それ位の小者だな。

こちらでも調べましたけど、特に目立つ活動はしてなくて、何処かの湯治場でちょこっと演芸やってて、湯治場が潰れてからは日雇いの仕事をしていた様です。
恭輔と何処で知り合ったのかは判りませんが、恭輔を人形に見立てた芸をやる様になったのはその後です。

えっ?
あの芸、前からあの二人でやってたの?急拵えだって聞いたよ?

ええ。察しつくと思いますけど、余りに受けないので一緒にやるのは辞めて、その後は遊吉一人で人形使ってやっていました。ただ人形はあくまで置き物で、孤独な男が人形に話しかけるって言う筋書きでした。人形が動いたり喋ったりする芸になったのは織音座に来てからで、人形が問いかけに返事を返す様になった事から、今の芸になったそうです。人形が可愛いと一部の客から熱烈な人気を得られてます。

察し所じゃありんせん😩どなたでもわかりんす。
…でも総司が人形が喋らんなくなりんしたって…。

そうなんです。人形が芝居の最中に「ここ楽しい」と言ってから、全く喋りも動きもしなくなくなったので、今はまた恭輔が加わって人形役になってます。

それがあのくっそ面白うありんせん芸・・・。

俺も観て来たけど、本当につまらなかったよ。
だいたいあの恭輔って要るのか?殆どただ座ってボロクソ言われてるだけじゃねーの。ただの人形が喋ったり動いたりするから意味があるんだろうに。

だからそれを夢路が面白くするんだろう?

いやぁ…龍さんから頼まれたから音頭取りしてそうな遊吉と話してみたんだけどさ。
なまじ贔屓の客がいるせいか何か知らないけど、カケラも面白くない癖に変に頑固で話にならないんだ。それでも何とか話つけて案を出す事にしたんだけどね。

龍さんほどの腕利きの人が、何でそんな人達の為にわざわざ気を回して、夢路に頼んだりしたのかしらね?

贔屓の客から乞われてるんで使ってるけど、その贔屓客が「面白くねぇ」ってヤジ飛ばした他の客と揉めるんだってさ。だからと言って龍さんが手を出す訳にも行かないし、そのまま使う訳にも行かないし・・・ってな訳で苦肉の策さ。

確かに龍さんはお金を払ってでも指南受けたいって位の人だからねぇ。

でも頑固なんだろ?案出した所で使ってくれるのかねぇ。

まぁ宛にはならないでしょうね。

龍さんの頼みだからね。何もしない訳には行かないよ(´・ω・`)

あぁ、客同士の揉め事は話は龍さんから聞いてる。
龍さんが上手く事を治めてるから俺が立ち入った事はないが、オオゴトになった時は頼むと言われてるよ。

僕もネ、気になる事があるんだ。

何?嘉太郎が気になるって事は…。

うん、遊吉には憑いてるよ。

うわ(◎_◎;)!やっぱり…って人形じゃなくて遊吉にかい😅

人形に何かいた事は確かだネ。でも今は空っぽで何もいないヨ。
遊吉に憑いてるものはボヤっと黒い影の様なものだけど、良くない物になりつつあるネ。

だから面白く無い?( ̄▽ ̄)

それは関係ないかな…☺️。

真顔で返って来た🤣🤣

そう言えば織音座は元々見世物小屋があった場所で、火事で焼失してからは何年も何も建ってませんでした。
それと関わりあるんですかね?

うん、織音座には霊がいっぱいいるから関わりあるかも。
でも邪な霊は意外なほど見ないんだ。遊び心いっぱいな霊が多いんだヨ。

じゃ遊吉が連れて来たって事?

これは僕の見立てに過ぎないけど、人形にいた霊は織音座の雰囲気が気に入って出て行っちゃったんじゃないかナ。代わりに遊吉には人の持つ小さな怨念が集まって、一つの塊になって憑いた…ように見えたヨ。一つの塊なだけでいろんな念が篭って見えたんだ。

うわぁ…会いたくないなぁ…😩

斎蔵も私と同じで見えるからネ。

いやぁ…😓。

じゃあ・・・今集まってる情報はこんな所ですかね、おねえさん。

七夏が座敷の奥に向かって声かけた。
部屋の奥ではずっと黙って話を聞いていた一人の女性がいた。
何処か他の者達とは違う異国情緒と、日本の奥ゆかしさを兼ね備えた様な独特の雰囲気を醸し出していたその人は、たまやの女将・音樹子だった。

音樹子

たまやの女将・音樹子。
鬼隠町で代々「たまや」の女将として経営して来た十三代目の子孫である。
海外での留学経験を持つ才女で、鬼隠町にやけに新しい物が多いのは、音樹子が持ち帰った物が多かったからである。また人脈を駆使して更に新しい物を仕入れている。
才色兼備で人望厚いがあまり人前に出る事はない。
親しい者達からは「おねえさん」と呼ばれている。

音樹子は静かに顔をあげると皆を労い、話に加わった。

みんな…ご苦労様。何時も有難うね。
外国にはね、Ventriloquism(腹話術)と言ってね、自分は口を閉じたままで、まるで人形が喋っている様に見せる芸があるの。その芸を身につけていたなら、人形が喋っても不可思議ではないわね。

へぇ、面白いでありんす。

まだこの国では観たことないですね。

えぇ、まだ誰もやっていないと思うわ。日本にも似た様な芸はあるけど、外国のそれとはまた違うと思うしね。
それに嘉太郎がそう見立てたなら間違いないわ。売れない寄席芸人が誰にも教わらずに急に身に付けられる様な芸ではないもの。人形が喋っていたのはからくりではなくて、本当に喋って動いていたと言う事・・・。

りく、千枝の様子はどうなんだ?

お座敷ではきちんと勤められていんすが、お稽古などは気抜けてる時がありんす。
日に日に疲れてるようにも見えんすし、遊吉の贔屓の嫌がせらせが酷くなって女将さんも心配していんす。

そう…。
お京ちゃんに私からも頼んでおくわね。りくはしっかり見守ってちょうだい。
但し世話焼くのはいざと言う時だけ。後はお京ちゃんに動いて貰いなさい。

解りんした。

俺も気をつけて見張るようにしよう。

そう、ここは鬼隠町の治安を守るもう一つの治安部隊なのである。
警官の斎蔵と取締役の七夏以外が表に出て動く事はなく、音樹子を中心として有志が集まり結成され、影で動いていた。
その存在を知るごく一部の者達は、彼らがどれだけ治安維持の為にその身を投じて死守しているかを知ってる為、誰の口からも語られる事がなく、その為の協力を惜しまなかった。
そして彼らは密かに「オリオンズ」と呼ばれていた。

今の所は大した事にはなっていないけれど、千枝の事は始まりでしかない気がするの。だから注意するに越した事はないわ。決して油断してはいけなくてよ。
何時も通り、宜しく頼むわね。くれぐれも気をつけて…。

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