鴉と蘇生りの水 五話 噂の出来栄え

2023年8月18日

夜・四話 鴉の謎

夢路の仕事・三日目

雅は俺達を信用してくれたようで倉庫に現れなくなった。
俺がここにいる間に問題が解決すればもう二度と現れる事はなくなるだろう。
でも社長から「今日も霊はいたか」と聞かれたら「いた」と答えた。
泉を元に戻すまで社長には怖がって貰わないとね( ̄ー ̄)。

仕事が終わって倉庫から出ると玄が待ち構えていた。斎蔵さんの所に向かう道すがら玄は雅の事を細かく伝えてくれた。

どうやら嘉太郎の憂いた通り雅の子育ては延々と続いている様だ。

雅には相方がいて、共に子育てをしていた。
けれど一羽の雛が巣から落ちてしまい獣に襲われ、相方は雛を必死に守ろうとして落命してしまったのだ。
その中雅は何とか雛を救ったが雛は深いを負っていた為、泉へと連れて行った。

泉に着くと一人の少年がいた。
少年は血だらけの雛を見て雅を怖がる事なく手を伸ばしてきた。
少年の気持ちを察したのか雅は抗う事なく雛を預け、少年は雛の血を洗い流したが既に事切れていた。
少年は小袖で濡れた雛を拭い雅に差し出したが、雅についた雛の血を傷だと思い込み、慌てて雛を置いて雅の身体の血も優しく水で洗い流した。
少年の顔は涙なのか泉の水なのか判らない程濡れていたが、雅の身体に傷がない事を知ると安堵してしくしくと泣き出した。

その後雅に導かれる様に巣のある場所に行ってみたが、そこは点々と血と羽が残るだけだった。

残った雛はどうなったのだろうか。

慌てて木に上ってみると、そこには愛おしげに二羽の雛を抱く雅の姿があった。
少年はそんな雅を泣きながら見つめていた。

そして地上に降りると散らばった羽を拾い、事切れた雛と一緒に木の根元にそっと埋めた。
雅は終始泣き顔の少年の横顔をじっと見つめていた…。

 
 

それが今から20年近く前の話らしいな。

 
 

雅の心には今でもずっと泣きっ放しだった少年の優しさが残っているんだ。
でも相方と雛を失くした悲しみが大きくて、雛が巣立って一人になるのが怖くて、妖になって時を止めた…。
って事らしいよ。
玄に気を許したのは、足が三本あって穏やかだから普通のカラスではないと思われたみたい。

 
 

玄は普通のカラスなんですよね?

 
 

多分ね。
知らんけどw

 
 

知らんのかいw

 
 

斎蔵さん、社長とは話出来たんですか?

 
 

あぁ、出来た。
出来たけど…。

 
 

斎「社長、あの泉なんですが…」
社「泉?」
斎「あの泉は町の人達にとって大事な『蘇生りの水」なんです。
  現に使えずに解放を望む声が時々耳に入っています。
  何とか解放してあげる事は出来ませんか?」
社「そう言われましてもねぇ…。あの泉に行く道が都合良いんですよ。
  あのまま道を拡げれば大きな車の出入りも容易になるから、その為にも道幅を確保しておきたいんですよねぇ。」
斎「ちょっとだけ道をずらすとか・・・。」
社「そんな事したらわざわざその部分の道を整備せねばなりませんよ。
  大金がかかってしまう。」
斎「ご尤もですが…😥」
社「それにあの泉、わしにはただの水溜まりに毛が生えた様なものにしか見えんのですよ。
  それに大金かける意味を感じませんな。」
斎「・・・(−_−;)」

 
 

…ってこんな具合だ。
とりつく島がなかった😓。

 
 

金かぁ。

 
 

じゃあ記事にしてしまうって言うのはどうでしょう?
俺が記事書いて新聞に載せれば迂闊な事出来なくなりますよ😏。
多少サクラは必要ですけどね( ̄▽ ̄)

 
 

あ、良いかも💕

 
 

でも時間ないよ。明日までに記事に出来るか?

 
 

任せて下さい😊
常に準備は怠ってませんから。

 
 

さすがだな😏
じゃあ、サクラはまかせろ🤓

清のティータイム・四日目

珈琲茶屋にて

あたしは何時も仕込みを終えた後に雛への餌やりに出ていた。
今も餌をやり終えて帰る所だ。

今朝の新聞にはしっかりと誠さんの記事が載っていた。
言葉は優しいし穏やかな文面ではあるけれど、よく読むと人の気持ちを煽る様な絶妙な内容でさすがと言う所。
果たしてその記事は町の人達はどう目にして、どう受け取られたのか…。
どうにもこうにも気になったので、斎蔵さんがサクラ役として頼んでいるであろう珈琲茶屋に寄る事にした。

珈琲茶屋は何時もそこそこに客がいる。今日もパラパラと人が座っていた。
あたしは何時ものカウンターの端の席に座り、何時も通りのみるくがたっぷり入った珈琲を注文すると、マスターがしたり顔であたしを見た。やっぱり頼まれてたね😁。

あたしの珈琲が届くとこれ見よがしにマスターとはなちゃんが会話を始めた。
恐らく似た様な会話はもう何度も繰り返していただろうと思う。
あたしは黙って様子を伺った。

花「マスター、今日の新聞の記事観た?」
嘉「あぁ『蘇生りの泉』が使えないって記事ね。読んだよ。あの泉だろ?
  俺も行ったけど使えなくなってたんだよな。」
花「使っても痩せないよ」
嘉「どうせ俺は太ってるよ💢…ってそうじゃねーし😠左足が痛むんだよ。」
花「顔洗ったら美人になれるかな…。」
嘉「聞いてねー😅。
  試してみれば良いじゃないか…と言いたい所だけど、使えないからなぁ。」
花「あの泉で癒された人いっぱいるんでしょ。」
嘉「まぁな。」
花「じゃ皆困るって事じゃん。何で誰も何も言わないのさ。」
嘉「何でって俺に聞かれてもなぁ…。」
花「って事はマスターは言わないの😠?」
嘉「俺かいっ💦俺はなぁ・・・(⌒-⌒; )」
花「これだからオトナは嫌なんだよ。」
嘉「はなぁ…😣」

客「マスター…あの泉、そんな事になってたんですか?」
嘉「そうですよ。使いたいんですけどねぇ・・・」
客「えー…疲れがとれない時とか行ってたんだけどなぁ…」
嘉「今は水に触るのさえ大変ですよ」
客「そこまでしっかり塞いじゃってるんだ😳」
嘉「えぇ、そこまでしなくてもいいと思うんですけどね(´・ω・`)。」
花「何で皆怒らないんですかねっ💢ほんと大人って…。」
嘉「まぁまぁ😅」
客「はなちゃんの言うとおりかもしれませんね…。」
花「そうだよ!!皆ちゃんと言おうよ!!😤」

さすがに何度も同じ話してれば少しは芝居じみなくなるもんだね😅
はなちゃんも良い感じで煽ってくれてるし・・・。
他の客も興味深げに聞き耳を立てていたので、話は直ぐに拡がるだろうと思った。

誠の企み

俺は出来たての新聞を先ずは斎蔵さんの所に持って行き、斎蔵さんが用意したサクラの下へも直接俺が持って行った。

珈琲茶屋のマスターとはなちゃんを始め、サクラはとても良い仕事をしてくれて、俺の下にも早々に問合せが何件か入って来た。
内容はだいたい「あの話は本当か」と言う内容だ。
あの記事は何時でも使える様に撮っておいた写真と、既に聞き取り調査していた利用者の話素にして作った。下調べ元から俺の仕事だし、俺は記者だからね。記事にするだけの内容は既にに用意されてたって訳なんだ。

人の心の妙なもので、あるのが当たり前になって何時でも使えるとなれば気にかけもしない癖に、使えないとなると無性に使いたくなる。俺の今回の策はそんな人の心を狙った策だ。
話は思った以上に早く町に拡がっていった。

そして十分拡がったと思われる頃に止めを刺すつもりでいる。

倉庫会社・五日目

 
 

突然すみません。
月就社の山之内と言いますが、取材させて頂いても宜しいですか。

突然訪問したにも関わらず、社長は俺が月就社の記者と聞いて取材に応じた。
どうやら当事者の社長の耳にだけはまだ例の噂は届いてないようだが、遠巻きに記事になってるらしい位は知っていた様で、都合良く受け取っているらしい。

社「何でもうちの会社の事が記事になってるらしいね。まだ時間がなくて読んでないのだが」
誠「まだお読みになってらっしゃらないのですか。
 実は御社の敷地と隣接している蘇生りの水についての記事を書かせて頂いたので、その件について伺いたいのですが・・・」
社「蘇生りの水?あぁ…。」

社長の顔は急に渋い顔に変わった。

社「関知巡査にも聞かれたけど、それが何なんですか?」
誠「あの泉が使えなくて残念がっている人達がいます。あそこを解放するつもりはないんですか?」
社「何だ・・・そんな話をしに来たんですか。」

社長は少し不機嫌になったが、俺も伊達に記者はやっていないし、紀行文ばかりやってる訳でもない。もっと大物を相手にした経験からすれば、この位の会社が相手なら造作もない話だ。

 
 

不思議なんですよ。
あそこをもっと活用すればきっと御社にも利点があるはずなのに、何故利用しないのかなと。

俺の言葉に社長はハッとした顔をした。

 
 

多くはないけれどあの泉の効能を信じて止まない人達がいる。
それは信仰にも似ています。何も効能がなかったとしても「病は気から」の人達にとっては充分効きますから、これ程有り難く思えるものはないですよ😊。
そんな有難い泉を社長さんが大切に扱えば、あの泉を愛する人達は自分達の気持ちを大切にされていると感じるはずです。
結果信頼となって返って来ると思いませんか?
粗雑に扱ってわざわざ敵を作る事の利点って何でしょうか?
その利点は泉を大切に思う人達を大事にする事による恩恵より大きいんですかね?
この町でこの町の人と共に働いて生きるなら、多少の不利益が出たとしても、この町の人達の利点を選ぶ方が結果的に多くの利益が得られると思うんですが…。
如何でしょうか?


社長は「うーん」と唸って腕組みをしていた。
俺はそんな社長から目線を反らさず、じっと見ていた。

 
 

いっその事、もっとあの場所を整備してして多くの人が使える様な場所にすれば、それに伴って大きな収益に繋がる事も考えられますよ。
例えばあの泉の水を利用して温泉にするとか…。

社長がパッと顔を上げて俺の顔を見返して来た。

社「なるほど…。それは良い案かもしれないな。」
誠「ここで働いてる方々も優遇すれば喜ぶはずですよ😊。従業員のやる気にも繋がります。
 それに…濡れた女も現れなくなるかもしれませんよ😏」
社「え・・・😦。」
誠「濡れた女は濡れてるんですよね?
 関係ないとは思えなくないですか?( ̄ー ̄)ニヤリ」
社「………😨。
 そ、そうか・・・そうだね、いい事を教えてくれた。早速考えてみよう。
 あ、これやるとなったら記事にしてくれるのか?」
誠「勿論😊」
社「そうか😃‼️じゃ早速検討するから大々的に記事にしてくれ❗️」
誠「(現金な人だな😅)では先ずは今日のお話を記事にしますね😄。」

この結果を皆に報告すると拍子抜けされてしまった😅。
確かに驚くほどこちらの思う通りに話が進んだからね。
もっと時間がかかるかと思ったのは俺も同じだったので、気持ちは解る。
ただ社長を一番よく知っている斎蔵さんが「社長は良くも悪くも単純な人だし、会社を発展させる為に何でもアリな人ではなかったので、話が進んだのかもしれないな」と言っていた。

夜・六話 守護と扶翼

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