鴉と蘇生りの水 一話 倉庫

斎蔵の始まり

俺はそこに行くのが嫌だった。

そこは最近出来た倉庫会社。
その会社の社長が俺に出来たばかりの倉庫を案内してきた時からだ。
その倉庫の一階奥の方に何やら感じるのだ。湿った重い空気と足元に感じる水の気配、そして妙な寒気で鳥肌が立つ。この感覚は人ならざる者と遭遇した時に感じる感覚だ。
だからきっと何かいるに違いないと思ったし、それが何か判らないので近づきたくなかった。
そしてそこが会社として開始してからも社長は俺を呼んだ。
気配は社長も感じていた様だったが、それが姿を表す様になったらしい。
そして社長は俺に頼み事をして来た。

仕事頼まれてくれって?
何の仕事だよ?

隣町との境にある小さな森の側に新しく二階建ての倉庫が出来ただろう?
あの倉庫を使ってる会社の社長と懇意にしてるんだけど、朝一時位のちょっとした仕事頼める人いないかって聞かれたんだよ。

朝一時だけ?

あぁ。俺が交番で鍵束預かるから、朝俺から鍵を受け取って玄関口の鍵開けて、中の扉や窓なんかを何箇所か開けて、担当者が来たら鍵を渡して終わり。
七日で5円。悪くないだろう?

5円!?たったそれだけの仕事を七日やっただけで?
あ、5円は未来で言う2万円位だよ。

何の話だ?
参考までに俺の給料は月19円だぞ。

斎蔵さんは巡査だからな。
でもそんな簡単そうな仕事なのに手当てが良過ぎる。
何か裏あるだろ?(¬_¬)

うん・・・まぁ😅。
・・・いるんだよ。

いる?あぁ~そう言う事か😑。
斎蔵さんが警官だから話が来たんじゃなくて視える事を知ってて相談されたんだな?
何がいるんだよ。

黒髪の濡れた女。

倉庫に濡れた女って何で?

もともとあの倉庫のあった場所のすぐ近くに泉が湧いてたんだよ。
でも倉庫作るのに邪魔だからって泉の水を塞いだらしいんだよね。
濡れてるからそのせいじゃないかって言うんだけど、朝に限って現れるんで誰も一番に出勤したがらないんだ。

今はどうしてるのさ。

社長がやってる。

何で七日なんだよ。

その間に何とかしてくれないかとも言われてる。

何で俺なんだよ。俺、まともに視えないし、一人じゃ祓えないよ。

今暇そうなヤツがお前しかいない。

何だよ、それ😩
まぁ今仕事なくて暇だし金欲しいからやっても良いけど。

お前に祓ってくれとは言わんから大丈夫😁
もし祓う必要がある時は姐さんに話して然るべき手段をとるよ。

それなら良いよ。

じゃ社長に言っておく。また連絡するよ。

はいよ。
ちなみに今社長は一人で行けてるの?

いや、俺が付き合わされてる。だから人を雇うよう薦めた😅
解決したらそれに見合った手当はちゃんと寄越すって言うから、俺ら的にも損はない😁

そか。
じゃ斎蔵さんも見たんだね?

見たよ。
長い黒髪の綺麗な女で確かに濡れていたし、足元には水が溜まってた。
真っ黒な着物姿で腕を押さえてたから怪我でもしてるのかな…。何か物言いたげだったよ。

何だよ、それ。建てちゃいけない所だったんじゃないのか?

そんな感じするな。

斎蔵さんが怖くないなら俺も大丈夫だな。
漆黒の髪に黒い着物…玄連れてくかぁ。

それから暫くして夢路は俺を介して社長に会い七日だけの仕事をする事になった。

社長はよっぽど黒髪の女に会いたくないらしく、その場で仕事を全部夢路に説明して、初勤務はいきなり一人での出勤だと無茶振りをしていた。でも夢路は一人なら玄を連れて行けるとこそっと言っていた。

夢路の初仕事

俺は初勤務の早朝、鍵束を斎蔵さんから受け取り、倉庫に着いて玄関を開けた。
一階の指定された箇所の開錠や二階の窓を何ヶ所か開け終わると、濡れた女が現れると言われる場所を探してみた。

確か、一階の奥の方の…。

その時、肩に乗っていた玄が一声鳴いた。
玄の向く方を見ると・・・。

いた。

女は濡れた着物を着ていて長い黒髪からは水が滴り落ちて、足元には落ちた水が溜まりとなっていた。
女は玄の声に微かに反応していた様に見えた。

そこで何してるんだ?

女は俯いて何も言わない。それでも視線はこちらを向いているのを感じた。
やや暫くそのままの状態が続いたが、仕事中だからずっとそこにいる訳にも行かない。
しょうがないのでその日はそこまでにし、玄を帰して仕事を続けた。

画・環

たまやにて

夢路、どうだった?

うーん、特に悪いものではなさそうだけど、玄が何か感じたみたいだ。
やっぱり人の形してるけど人じゃない気がする。

話を聞いてずっと考えてたんだけど…。
確かあそこには「蘇生りの水」と呼ばれていた泉があったはずよ。

蘇生りの水?

えぇ。傷を負った鴉がその水で傷を治したと言う言い伝えがあってね。
鳥達が怪我をその水で癒していたので、人も治癒を求めて訪れていたの。
それが「蘇生りの水」と呼ばれる小さな泉。
最近はすっかり目立たない場所になってしまってたけど、泉の水を塞いでしまってたなんて…。
人は訪れなくなってしまっても、鳥達はあの泉で癒されていたのに…。

だからかー。
黒髪に黒い着物って聞いて何となく八咫烏が思いついてさ。
それで玄を連れて行こうって思ったんだ。
玄はたまたまだけど、足が三本ある見た目が八咫烏だからね。

足が三本あった事で他のカラスに虐められて怪我してた所を夢路が見つけたんだものね。

うん。だから昼間はいじめられない様に足を一本隠してるから、お腹が何時も膨れてるけどね。
その玄が呼びかけるように鳴いたらちょっとびっくりしたみたいだったよ。

会う時は出来るだけ玄を連れて行くと良さそうね。

そう思う。

あ、誠さんにもよく調べて貰いなさい。

うん、そうする。

俺は早速誠さんに文を書いて玄に持たせた。
玄は直ぐに誠さんから「了解した」と言う返事を持ち帰って来た。

二日目も黒髪の女は現れた。
今回玄は鳴かなかったが女はじっと玄を見ていた。
俺は霊とか妖とかは何となく感じる位だけど、それと同じ位の感じで生き物達の言葉が解るんだ。
猫の言葉は初音には敵わないけどね。初音は猫の言葉なら異国人と話してるみたいになるからな。俺は何事もやたら広くてめちゃくちゃ浅いんだよ😅
そんな訳で玄が俺に伝えようとしてる事も大雑把には理解出来たし、何なら黒髪の女の言葉も届いて来た。
やっぱりこの黒髪の女はカラスだ。
どうやら羽の怪我を癒してる最中に泉を堰き止められてしまって、傷を治せないでいる様だ。
泉を元に戻して欲しくて現れてるのだが、社長が怖がるもんだからその気持ちが伝わらなくて悲しんでいた。泉を元に戻して欲しい気持ちが水溜まりになっているみたいだった。
俺は実際会話してる訳じゃなくて心の念が伝わって来るだけなんだけど、何時もはこんなにはっきり感じない。それだけ必死で切羽詰まってるんだと思った。

何があったんだろうか…。

それ以降何時もなら右肩にいる玄が左肩に乗る様になっていた。

夜・二話 雅

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