一章六話 初御目見え

2023年5月12日

織音座にて

環が織音座に着くと、総司の姿があった。

姐さん、来てくれはったんですか?

えぇ、調子はどう?

まぁ何とか…。

総司は経験不足なだけだからね。
ここで沢山経験すると良いわ。

有難うございます😊。
…もしかして人形の噂聞きつけて来たんですか?

えぇ。清ちゃんから聞いて…。総
ちゃんから観てどうなの?

俺、あの人形あんまり好きになれんのですわ😩。
なんか気持ち悪ぅて…😰。

そう…。
あ、今彼らは何処?これ渡したいのだけど…。

なんすか?
え・・・・・・・😶

面白い?

あ、いや・・・その・・・・(^^;;。

題して「禍々しい文化人形」。

いや・・・確かに禍々しくて、洒落にならないです。
ほんまこんな感じ・・・😥。
でもこないな生々しいもん渡して喜びますかね?

ネタ観てから考えるワ☺️。
じゃそろそろ席に着くわね。
総ちゃんも頑張って💕

催し物が始まっていくつかの演目が行われ、やがて目的の人形使いの番になった。

内容は以前は独り者設定の遊吉と人形のやりとりだったが、人形役をやっていた恭輔が余ってしまった事で内容が変更され、恭輔は遊吉の飼っている人の言葉を話す猿になっていた。
最初はまくし立てる様に愚痴をぶち撒ける遊吉に、たまに恭輔が口を挟むと言うかんじのやりとり。
そのうち人形が突然話し出して、絵に描いた様に恭輔が驚いて舞台の端に隠れる様に座り込み、遊吉が人形と会話すると言う流れだ。
人形との会話は筋書きがないらしく、人形が喋り出して初めて方向性が決まる様だった。
恭輔は応用が利かないのか、人形が話し出すとほぼほぼ黙ったままで、たまに人形に驚かされていた。

人形は女の子なのね…?

環はチラッと周りを見た。
熱狂的な贔屓客が目を潤ませながら食い入る様に観ていた。隣りに座っていた男はせっせと何かを書き写す様にペンを走らせていたが、視線を感じたのか環の方を向いてハッとした顔をしたが、また何かを書き始めるのだった。

人形使いの持ち時間は15分だった。人形が話している間は人形とのやりとりで終始するが、余り話さない時もあると言う。そうすると遊吉と恭輔とのやりとりで時間を埋めるらしいが、この日はだいたい上手く時間内に収まった様だった。演目が終わるなり、隣りにいた男が環に声をかけた。

男「鼓星姐さんですよね?」

環「そうだけど・・・」

男「あぁこんな所で会えるなんて今日はツイてます。鼓星姐さんのお座敷で遊べる様になるのが夢なんですけど、まだとてもとてもそこまで行かなくて・・・。」

環「まぁそれはどうも有難う☺️。是非呼んで頂ける様になって下さいね。あなたのお名前は?」

原「原昌と言います。」

環「原昌さんね、覚えておきます☺️。ところで演目中、何を熱心に書いてらしたの?」

原「あの人形使いの演目が大好きなんで、内容をまとめて瓦版作ってるんです。ご贔屓の方々が読んで下さってるので、その都度内容を書きまとめてるんですよ。」

環「あら、そうなのね。」

原「これ良かったら読んで下さい。一部持ってきてるので・・・。」

環「有難う。拝見するわ☺️。所でその人形使いの方達にお渡ししたい物があるのだけど、どうすれば良いのかしら?」

原「鼓星姐さんからの差し入れ!?それは凄い!!じゃあ僕が呼んで来ますよ!!」

そう言うと原昌は人をかき分け、勝手知った様に楽屋へと向かった。

環は待つ間渡された瓦版に目を通したが、そこにはこれまでの演目一覧や贔屓客からの挿し絵等がまとめられていた。環は無表情で両手を広げ瓦版を丸めようとしたが、ふと思い留まり小さく畳むと持っていた巾着に仕舞った。

原「鼓星姐さん、連れて来ましたよ。足田さん、こちらの姐さんです。」

遊「足田です。すみません、相方は今着替えに手間取ってまして、僕だけご挨拶に伺いました。」

原昌は得意気に遊吉を連れてくると、遊吉も満面の笑みで挨拶をした。

環はニコリと笑顔を見せ短く「どうも」と返答すると懐から帛紗を取り出し、話しを続けながら中の絵を差し出した。

環「夢路から聞いて拝見致しましたの。とても興味深かったのでよろしければお礼代わりにこれ受け取って下さいまし」

遊「夢路さんからですか。いやぁ、嬉しいなぁ。鼓星姐さんと言えば鬼隠町の売れっ妓と言うだけでなく、名の知れた画家でもあるのにこの様な絵…」

遊吉は絵を取りまともに見ると一瞬言葉を詰まらせた。

環「拝見する前に描きましたの。人形が喋るなんてちょっと怖いと思ったものですから、この様な絵にしましたけれど、実際は普通の可愛いお人形でしたのね☺️。大変失礼しました。」

遊「い、いや、普通はそうですよね😅。でもうちの人形…ちぃちゃんと言いますが、ちぃちゃんは見た目通りの可愛い人形なんですよ」

環「そのようですね☺️。ではこの様な絵では失礼ですわね。描き直して次回にでも…」

遊「いや折角なので喜んで頂きます。是非また可愛いのも頂けたらもっと嬉しいですが…。」

環「またご用意させて頂きますわ☺️。」

遊「是非!!また来て頂けるのを楽しみにしてます。あ…夢路さんとはお知り合いなんですか?」

環「えぇ、夢路はたまやにおりますので…。他の置屋や揚屋にも面白いと喧伝してましたから、きっとそちらからもお客が来ている事と思いますよ」

遊「それは有難い。あ…」

二人が話しているとドタバタと賑やかな足音が聞こえ、遊吉が振り返ると遊吉の贔屓客の女が五、六人現れた。

女「遊吉様、お食事まだでしたら是非私共と如何ですか?」

遊「千知さん、あ、あぁそうですね…。ええと…。」

環「私も仕事がありますので、この位で失礼しますわ」

遊「あ、いや・・・今日は有難うございました。」

千「遊吉様、今日はこの千知にお任せ下さいね。とても美味しい料亭をみつけたんですよ!!」

木「千知さん、素晴らしいわ!!何時もお目が高いからきっと美味しいですわよ、遊吉さん」

千「あらお上手ね、木綿子さん」

遊吉は礼の言葉もそこそこに名残惜しそうに振り返ったが、贔屓客の主導者らしき女・千知に腕を掴まれてその場を去った。

環はその様子を作り笑顔で見送り、居なくなると同時に真顔になった。

何あれ…🥶。どいつもこいつも気持ち悪🤮!!

たまやにて

環が絵を差し入れしてから数日が経った頃だった。

環、明日なんだけどお座敷に川口先生見えるわ。

あらお久しぶりなお客様ね。

それが遊吉も来るのよ。

え?

恐らく贔屓客達の差し金だとは思うけれど、川口先生は仕掛けなく喋る人形に興味をお示しになったそうなのよ。遊吉は何処で嗅ぎつけたのか先生が時々うちを使って下さってるのを良い事に、是非たまやであなたにもお礼が言いたいって。

うちは一見さんお断りだものね。
それにしてもよくそんなお金あったわね。まさか先生持ち?

あなたも会った贔屓客の千知がお金を用立てたみたい。

あの女ね…。

銀ちゃんにも来て貰うから、一緒にお座敷に上がってちょうだいね。

判ったわ。

そして鬼隠町に何時もの夜が来るのだった。

にほんブログ村 にほんブログ村へ