一章二話 織音座の寄席芸人
この町に芝居小屋「織音座」が出来たのは最近の話。
杮落としでオペラをお披露目して以降、幾つもの芝居や寄席演芸などの興行が行われ、賑わいを見せていた。
特に人気があったのは、気楽に観れて笑える軽演劇や剣劇・落語などであった。また映写機を備えていたので活動写真を観る事も出来たので、ちょっとした娯楽の集合地にもなっていた。
織音座では定期的に興行していた劇団蒼海と言う一座がいた。主に番町皿屋敷や四谷怪談等の怪談を現代版にした芝居を行っていたが、これがまた何とも拙い内容と芝居を観せる一座だった。それでも一番人気の役者が実に整った顔立ちでかなりの人気があり、大量の投げ銭があった事から羽振りは良く、定期的な興行を続けていた。
ある時、その劇団蒼海が突然公演を中止する事になった。それは主要団員が突然病気を理由に辞め、代わりの役者がいなかった為に当面の公演を見送る事になったのである。急遽穴埋めの為、寸劇を集めた軽演劇を上演する事が決まり、演者があちこちから集められた。
幇間の総司も助っ人として呼ばれたが、こう言った形で人前に立った事がなかったので、面白いネタをまとめる事に苦心していた。
夢さん、手伝って下さいよ💦
俺は面白い話なんて書けねぇよ。
だいたいお前幇間だろ?
人を楽しませるのは本業だろうが…😩
そうですけど、お座敷と舞台とは違いますよ😫
ちゃんと内容は考えて来たんで、まとめるのだけでも…。
しゃーねぇなぁ…知らねぇよ?
何とか筋書きが完成した総司は、りくや環に見て貰うと思いの外反応が良かったので、安心して芝居小屋へと向かった。
りくちゃん、総司の寄席観に行くの?
うん、行こうと思っていんす。
わっち乙なの大好きでありんすから。😁
私も行きたい所だけど、もうその時間にはお客さん来るから行けないのよ。
代わりに観て来てね。
判りんした。
りくが織音座に着くと鬼隠町の住人とは違う雰囲気を持った男が挙動不審にうろうろしていた。
やや暫くあちこち覗き込むように見ていた男は、芝居小屋の裏手に何かを見つけ横道へと歩いて行った。りくは訝しげにその様子を気にしつつも芝居が始まる時間だったので、表に戻り芝居小屋の中へと入っていった。
軽演劇と一言で言っても、急遽集められた人ばかりなので内容は様々だった。浪曲あり漫才あり、それでも生業にしている者はまだ良かったが、中には音痴のオペラなどもいて、違う意味で面白い内容になっているものもあった。
それら演者の中に、殆ど喋らない人形役の男とその男相手にやたら文句言ってる男の、掛け合いの様な寸劇をしている者がいた。
面白くありんせん・・・🙄。
りくはそう思いつつも、人形役の男が哀れで気になっていた。
肝心な総司の小芝居はその後に登場したのだが、人形役の男の事が気になってたので、その二人組よりは面白いと思った記憶しかなくなっていた。
やがて芝居が終わりりくの下に総司がやってきた。
どないでした?
多分面白かったと思いんす。
多分?
何ですか、それ。つれないな…😓
お許しなんし💦
その前の二人組が気になって…😅
あぁあの二人ですか。
あの二人も急拵えの組み合わせらしいですよ。
そうなん・・・。
何でも人形が動かなくなったから、人にしたって言うてました。
人形は動かない物でありんしょ?
そうなんですけど、そう言うてました。
どうやら普段は人形相手にやってたみたいで、人形が喋るのがウケてたみたいですよ。
人形が…ねぇ・・・😑
名は何て?
喋ってたのは足田遊吉。
人形の役やってたのは愛花屋恭輔言うてました。
足田遊吉、愛花屋恭輔・・・ね。
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