一章夜四話の十 浄化の日
鬼隠の花街に宵の闇が訪れた。何時もと同じ花街の喧騒の中、人の流れも何時もと変わらなかった。
診療所
はい、これ。夢路は何時も使い過ぎるから気をつけてね。
死ぬわよ。
そしたら今生最後を安楽に逝けるわね💕
それに私が本気出しちゃったらコレ持たないわ。
そうね😅そんなに丈夫じゃないからね。
病気の心配はなさそうだから安心して。
有難う😊じゃ行って来るね💕
行ってらっしゃい😊
千知の家
御免下さい。
千「どなた?こんな遅くに・・・あ・・・😳」
嘉「夜分突然に申し訳ありません。ご依頼の物をお届けに上がりました。」
千「ご依頼の品?何の事かしら?」
嘉「あれ?おかしいな・・・。遊吉さんが今度帛紗を売るんだと仰って、20点ほど注文されたんですけどね。」
千「そんな話は聞いてないわ。」
嘉「そうですか・・・。それは困ったな…。端切れじゃないから結構お金がかかってしまってるのに…。」
嘉太郎は伏せ目がちにそっと溜め息をついた。その仕草に千知は思わず息を呑んだ。
千「あの・・・聞いてはおりませんが、今後の参考に見せて頂けます?」
嘉「そうですか。でも無理はなさらなくて結構ですよ。」
千「いえ、無理ではありませんわ。折り合いがつけば商品にさせて頂きますから。」
嘉「それは助かる!!でも女性が一人の所に僕のようなものが入ったら…。」
千「大丈夫ですわ。今日はお友達が沢山来てますの。もしかしたら商品にならずとも皆買ってくれるかもしれないわ。」
嘉「そうですか。それは有難い話です。では失礼させて頂きます。」
嘉太郎は極上の笑みで千知を見つめると千知の頬がパッと赤く染まった。千知は慌てて隠す様に手を頬に当てると十糸子を含む取巻き達のいる広間へと嘉太郎を誘った。
稲葉楼
昼間のイライラを忘れようと花街へと繰り出した遊吉は、途中文乃にあげる為の桜餅を買い稲葉楼へと向かった。
稲葉楼では何時もの通り京がキビキビと廓を取り仕切っていたが、遊吉の姿を見かけると小走りで駆け寄った。
京「遊吉の旦那、相すみません。今文乃はお客様が入ってしまってるんですよ。終わるまで別の妓をつけますので、待ってて下さいな。」
遊「何だよ、客か。どれくらい待つんだよ?」
京「そうですね・・・一、二時間程でしょうか・・・。無粋な真似も出来ませんのでね。」
遊「何だよ…。
京「その代わりに特別にたまやから芸妓を呼んでおりまして、間に合い次第ご案内致します😉。」
遊「たまやから?」
京「えぇ😊。」
遊「……仕方ないな。じゃあ待ってるから案内してくれ。」
京「では到着次第改めてご案内致しますのでそれまではこちらで。」
連れられたのは離れの奥座敷であった。
京「今日はお詫びに一膳ご馳走致しますね。今お酌に花魁を呼んで参ります。」
遊「何だ、空いてる花魁がいるならそちらでも…。」
京「お客様がおいでになるので、長い時間はいられないのですよ。まぁまぁお待ち下さいな。」
そう言うと京は静かに襖を閉めた。
お銚子が一本と何品かのツマミが乗った膳が運ばれ、「失礼します」との一言と共に花魁が入って来た。
遊「・・・‼️ お前・・・初音!!」
り「どうも。今日文乃は来んせんよ。
でありんすからわっちがお相手させて頂きんす。」
遊「来ない?どう言う事だ!!」
り「文乃はもう会いたくないと言っておりんす 。」
遊「お前、余計な事言って邪魔したな?」
り「何の事やら…。」
遊「貴様・・・・。」
遊吉が席を立ち、手を振りかざした時だった。
遊「うっ・・・」
りくは袂から拳銃を取り出し遊吉につけつけていた。
遊「俺を殺す気か?」
り「今すぐでも殺したいほど嫌いでありんすが、ぬしそんなに簡単に死んで貰っては困りんす。
これからぬしに宿った汚れた魂を浄化させなくてはなりんせん。
緞帳が今引かれんした 。これが合図でありんすぇ。」
パンっ!!と言う乾いた音が響き遊吉はその場で倒れ込んだ。りくは遊吉の太ももに一発銃を放ったのだ。命の危険を感じた遊吉は慌てて部屋を飛び出すと、長い廊下の先が二手に分かれていたが、何故か一方の前には高く座布団が置かれていた。遊吉はもう一方の方にあった渡り廊下を進むとそこは石蔵があり、その前まで行くと石蔵の扉が開いた。
遊「わっ!!あ、つ、鼓星!!すまんが俺を匿ってくれ!!」
ニコリと笑った環は石蔵の中に遊吉を入れた。
遊「っつ・・・!あの女・・・💢鼓星、すまんが薬を・・・鼓星?」
環は丁寧に扉を閉じるとそのまま着物をするりと脱ぎ出し髪を解いた。すると下に着ていた洋装と手には先にくないの様なものがついた鞭らしきものを手にしていた。
遊「え・・・」
ゆっくり振り返ると環の顔は待ち侘びた獲物を捉えたかの様な不敵な笑みに変わった。
穢れた血は流さないとね・・・。
キラッと光った鞭の先が上から下に振り下ろされた。
室内に響き渡る叫び声。だがここは石蔵。誰にも声は届かなかった。
やがて叫び声と一緒に高笑いの様な声も混じり出したが、それでも誰かが来る事はなかった。
それでも誰かが開けたのか扉が少し開く音がした。その声に気付いた遊吉は逃げる様に外に飛び出した。
環、ちょっとやり過ぎだよ😅。
あぁ、そうね😊。つい・・・楽しくなっちゃったわ💕
環かに逃れ、ボロボロになった遊吉が中庭に飛び出すと、そこには七夏がいた。
おや・・・・遊吉の旦那、どちらに?
随分とまぁお楽しみな姿で…( *^艸^)プッ
遊吉は叫び過ぎて喉が枯れ果ててようやく聞こえる声で叫んだ。
遊「何処が楽しんでるんだ‼️お前この街を見張る女衒だろう!?俺を放置したらどうなるか判ってるのか!?」
七「随分とまた上から物を申されるお方だな。放置はしませんよ。」
そう言うと七夏は刀を抜いて遊吉の目の前に突き出した。
遊「ヒィ‼︎」
七夏はへたり込んだ遊吉の袂を足で踏みつけ、刀の刃を顔に向けた。
七「まだまだ・・・・お楽しみはこれ位じゃ終わりませんぜ?」
思わず仰け反った遊吉の鼻に刃が触れ血が流れたが、命の危険を感じてそれどころではない遊吉は、踏まれた袂を破り捨てて逃げた。七夏は逃げる背中に刀を振り下ろし袈裟懸けに切った。
まだまだ…。
遊吉は背中を切られて一瞬は怯んだものの、それでも七夏の言う通りまだ逃げる元気は残されており、転がる様に走り去った。七夏はその背中に殆ど布がない情けない姿を見てまた吹き出していた。
屋形船
一方恭輔は夢路こと龍湖と会っていた。屋形船を借り切って乗り込んでいた。
借り切ったと言っても河岸につけられたまま、船頭はいなかった。
恭「何でこんな場所で?」
夢「誰にも邪魔されない様にね。最後の宴よ。」
恭「最後て…。」
夢「今日最後だったのでしょう?」
織音座最後の興行と勘違いした恭輔は、龍湖が祝ってくれるものと受け取り単純に喜んだ。
するすると恭輔の帯が解かれ、何やらゴソゴソと夢路が弄っていた。
恭「何してん?」
夢「これはね。ゴムで作った薄い薄い袋。この中に媚薬が入ってるのよ。これがあれば貴方は暫く休む暇がなくなるから。」
恭「え、何やねん💦冷たっ!!あ、いや・・・・あ・・・」
夢「この媚薬はすぐに効き始めるわ。ほら……」
恭「あ・・・・🩷」
恭輔は甘い香りと柔らかな温もりと今まで経験した事のない強烈な刺激に何度も気を失いかけていた。
夢「まだまだ始まったばかり。そう簡単にはいかせないわ。恭輔サン💕」
恭「た・・・龍湖・・・💕」
まだまだ…貴方には一生分の極楽が待ってるのよ。
一生分のね・・・💕
再び千知の家
千知の家に入った嘉太郎は持っていた帛紗を広げ、そこにいた者達に品定めをして貰っていた。
皆が夢中になって見ている間、千知の耳元でそっと呟きその場を離れた。
千知の姿が見えなくなった十糸子は、異変を察知して皆の手を止めた。
十「ちょっと待って!何か変だわ。千知さんは何処?」
その時だった。
上からヒラヒラと何かが舞い落ちて来た。
十「何よ、これ・・・。えっ!!」
十糸子が目の前に落ちてきた一枚を手に取ってみると、それは遊吉の情事の写真だった。その情事の写真は相手も様々に何枚も何十枚も降ってきた。
そこにいた者全員がそれらを拾い集め悲鳴の様な叫び声を上げて騒ぎ出した。
中には千知や十糸子と絡んだ写真もありそれが一層騒ぎを大きくした。
「どう言う事⁉️十糸子さんは私達の気持ちを知ってて利用したの⁉️」
そんな怒号が十糸子に向けられた。十糸子自身も千知の写真に気持ちが荒ぶっていた。
十「うるさいわねっ‼️あんた達の事なんか遊吉さんが好きになるはずないでしょう!!」
思わず叫んだ言葉にその場が地獄絵図と化するのに時間はかからなかった。
一方で嘉太郎に連れ出された千知は・・・。
千「何だか下が騒がしいけど・・・」
嘉「僕より下の方が気になるかい?」
千「え・・・。いえ…あの人達なんてどうでもいいわ。」
嘉「そうだよね。君には僕がここにいるからね。」
千「嘉太郎さん・・・」
嘉太郎が千知の顔を手で引き寄せながら囁くと、千知は顔を赤らめながらされるがままに目を閉じようとしたその時だった。
嘉太郎がひょいっと千知から離れると千知の顔を掠めて一枚のカードが飛んできて壁に突き刺さった。
千「ひっ!!」
嘉太郎は窓際に立ち、入り口には誠の姿があった。
誠さん、来るの遅いよ。
もう少しで唇に触れてしまう所だった。
すまない。
思った以上にあちらが凄い事になって、抜けるのに手間取ってしまった。
千「な、何よっ!!あんた達、私を・・・きゃあ!!」
千知が騒ぐと同時に誠から飛んだカードが押しピンの様に千知の服を壁に張り付けた。
嘉太郎がさっと窓から千知の下に舞い戻りその頬を撫で再び窓へと遠退くと、誠がスッとカードを飛ばした。そのカードは嘉太郎が撫でた頬を撫でて壁に突き刺さった。頬から血が滴り、千知は恐怖で髪を真っ白にしながら押し黙ったままになっていた。
さぁ、これに懲りたらこの町からもう出て行くんだネ。
二度と戻ってくるんじゃないヨ。
番所前
再び遊吉。
七夏に袈裟斬りにされた後、転がる様に走って逃げる遊吉は、まるで行き先を案内されてるかの様にくないが飛んで来ては方向転換していた。
ほんとは道案内するだけだったんだけどね。
清はそう言うと遊吉の前に現れ、満身創痍の遊吉の足にくないを刺して動きを止めた。
遊吉の枯れ切った声は虚しく夜空に消え、清は倒れた遊吉に包丁を突きつけた。
亡くなった子供の為にも殺してやりたいけど、今のご時世そうもいかないからこれ位で勘弁してやるよ。
清は遊吉の髪を包丁で剃り始めた。怖さで動く事も出来ない遊吉はされるがままツルツルの丸坊主にされてしまった。鼻先と包丁の尖端とを突き合わせてニコリと笑った清は、足に刺さっていたくないを抜いてその場を離れた。
やがてたどり着いた場所は番所前。何時もなら人が多く行き交うはずだがそこには誰もいなかった。
現れたのはただ一人斎蔵である。
出血と痛みでもはや目も霞んでよく見えてない状態の遊吉は、斎蔵の姿が何時もと違う出立ちであったにも関わらず,警官の斎蔵だと認識した。
遊「た、助けてくれ…」
お前・・・それ誰に言ってるんだ?
そうだ。俺は警官だよ。警官として言うならお前はもうお前に弄ばれた娘の親から訴えられている。裁判所からの呼び出しがあるって事だけは教えといてやるよ。他にやってきた事はここに来るまでに散々やり返されて来ただろう?それも罪滅ぼしの一端に過ぎないからな?
あと悪いな。人形に憑いてた霊は浄化させて貰ったよ。その霊にした事は誰もお前に罪滅ぼしの機会を与えてはくれない。だからその機会は俺が代わりに与えてやるよ。
斎蔵の鉤爪が遊吉の顔を掻いた。遊吉は顔に走った痛みと共に気を失った。
浄化完了。
その一言と共に何処からともなく現れた人影が遊吉の身体を番所の中へと運んで行った。
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