座敷童子になった霊・夜

2023年5月28日2023年8月8日

急遽たまやは夜半の仕事を休みにして全員が集まった。

りくは玩具を用意し、嘉太郎はお手玉を清は菓子を作ったり、それぞれが子供達を持て成す為の準備を整えた。
そして準備が終わると蝋燭を灯しその灯りだけの部屋で、全員腰を落ち着け静かに時を待った。

待ってる間に伝えておくな。
遊吉は夜な夜な夢にうなされてるらしい。たまに大声で「来るな」とか「やめろ」と叫んでいて、駆けつけた医者に「人形が俺を覗き込んでる」とか「子供が無邪気な顔して傷口を突いて来る」とか言ってるんで、心を病んでると思われている様だ。

まぁ・・・あれだけの目に遭ったら多少は病むでしょうねぇ。
あたしらより人形の方が強かったのかw

おいら達よりは人形の方が酷い目にあったからね。
当然だよ。

それに比べれば恭輔はマシとも言えるんですかね。
今は隣町に引っ越して日雇いで働いてる様です。

近っ。

恭輔も噂は流れてますからほんとはここを離れた方が良かったと思いますが、遠くに行くだけの金がなかったようですよ。

シッ!!静かに・・・。

一同が静かになると、廊下からパタパタと走る音が聞こえて来た。

だーれ？皆待ってるわ。いらっしゃい。

音樹子が優しく声をかけた。
足音はやがて一同の待つ部屋に近付いてきた。廊下に近い位置にいた嘉太郎が障子をスッと半分ほど開けると足音は止まり、何かの気配だけがそこにあった。

いらっしゃい。
何か言いたいんだよネ。入っておいで。

嘉太郎は既に何か視えてるのかそこにいる何かに話しかけた。
一瞬静かになったものの、少しするとパタバタと威勢よく何かが入って来た。
それは視える嘉太郎や斎蔵には女の子の姿であり、視えない環やりく等には小さな子供の形をした薄ら白い影に視えた。足音とはしゃぐ声だけは部屋中に響き、喜んでる事だけは明白に伝わっていた。
そして意外だったのはそれが一人ではなかった。
次々と子供の霊が入ってきたのだ。男の子もいた。年齢も赤ちゃんの様に視える子供もいれば、少し大きな子もいた。

あ・・・この子、遊吉の子だ・・・。

嘉太郎が一人の小さな赤ちゃんにも見える子供の霊を見て言った。

子供に罪はないよね・・・可哀想に・・・。
せめて今だけは楽しんでおくれ。

清が涙を浮かべながら呟いた。

今日はあなた達の為に用意したの。思う存分遊んで行きなさい。
さあ、私達も一緒に楽しみましょう。

そうだな。鬼ごっこしても捕まえられないから、何か童歌でも歌うかぁ。

鬼いるけどなwww

あ、言っちゃったw

童歌か・・・。
ずいずいずっころばしなら出来るかな。

良いかも。

ずいずいずっころばしごまみそずい・・・。

嘉太郎と環が向かい合い、環が歌い始めるとその様子を覗く様に霊が動き出した。
清とりくも二人の間に軽く握った手を差し出すと、また霊が動き様子を覗き見ているのが判った。
更に斎蔵もその中に加わろうとして手を差し出すと指の輪にすぽっ・・・と差し込むような何かを感じた。その様子は斎蔵には視えていた。子供の霊の一人が環達の真似をして、斎蔵の指の輪に自分の指を差し込んで楽しそうに笑っているのが見えた。子供は斎蔵が自分を見ている事が嬉しかったのか、甘える様に膝の上に座り込んで一緒に遊んでいた。

ずいずいずっころばしごまみそずい・・・。

子供のきゃっきゃっとはしゃぐ声、バタバタと走る音や手を叩く音が静かに静かに部屋に響いた。
嘉太郎や清達に絡む様にして一緒にずいずいずっころばしをやっていたり、子供達が斎蔵の手を取り合って喧嘩したかと思えば、すぐに仲良くなってお互いの手の輪に指を入れる仕草に変わったり、子供達が楽しんでる様子が視えてない者にも感じ取れた。